今となっては随分昔、それは母の女学校時代の後輩の方に誘われたことがきっかけでした。全く興味はありませんでしたが、大病をした後でもあり、「大きな声を出すのは健康にいい」と母に言われて始めることにしました。
 稽古は茂山千之丞師匠と1対1。
最初、ただ台詞をオウム返しに大きい声を出せばいいとのことで、生まれて初めてくらいの大きな声を出し、気分がスッキリしたことを覚えています。1年程経った頃、発表会で初舞台を踏むことになりました。演目は「盆山」といい、盆栽を盗みに入った男が、その家の主人に見つかり、犬や猿、鯛の鳴きまねまでさせられるというお話です。台詞を覚えていても、動きを入れると言葉が出なくなり、台詞と動きの同時進行には大変苦労しました。舞台当日は緊張で腹痛を起こす始末でしたが、いざ舞台に出ると、客席に友人や知人の顔があり、不思議と落ち着きました。舞台経験は初めてでしたが、何だか楽しくて、それ以来35年続いています。
 現在は、茂山あきら先生に師事し、月2回の稽古に通うことが楽しみになっています。舞台は、今の方がドキドキしますし、台詞は飛ぶは、間違えるは、覚えが悪くなっているのに、相変わらずの一夜漬けの復習で済ませています。
 図々しくなったのは、それだけ歳を重ねたということだと思いますが、もう少し狂言の勉強をして、これからも楽しみながらやっていきたいと思います。