ふたつの女子大で観光を教えて6年目になります。最初はどこに行っても若さあふれる学生の熱気に戸惑ったものですが、今や、ベテラン講師の域に達しました。と言いたいのですが、昨年のコロナウイルス禍から始まったオンライン授業には今回も苦労しました。

 オンライン授業はパソコンを利用して、クラスルームという仮想教室で学生と対話しながら講義を進めます。最後に毎回、学生に小レポートを書かせます。

「韓国、ソウルで、どのような観光を勧めるか、2百字以内で」といった問題です。学生はどちらも70名います。2年に渡るコロナウイルス禍で観光と観光産業は大変な状況ですが、幸い、私の教室は合計で140名。盛況です。

教室に入ることもできず、自宅でパソコンと向かい合うだけでは学生が可哀想と、全員にレポートのコメントを返すことにしました。しかし、これは大変でした。

レポートを読み、全員にコメントを返していますと、朝から始めて、夜遅くまでかかってしまいます。また、コメントを読んだ学生から色々な質問が来ます。

学生「先生は旅行会社への就職を勧められますか?」
私の答え「観光の未来は明るいのですが、旅行業は「構造的な不況産業」です。会社もソリューション(問題解決?あいまいですね)事業への転換をめざしています」

学生「先生のいらしたJTBはどんな会社でしたか?」
私の答え「昔は男のパワハラ上司が多かったですね。当時は日本の社会がパワハラ男でないと会社でえらくなれない、という雰囲気でした。その点は、この20年で社会は良い方向に変わりました。女性が活躍できる、女性の力が必要な職場です」

学生「航空会社のキャビンアテンダントになりたいのですが、どう思われますか?」
私の答え「CAの仕事はきびしいですよ。まず飲み物を出し、下げる。今度は料理を出して、下げる。免税品の販売もする。一人で4、50人のお客様を担当する。これを騒音と振動、国際線の場合、時差と闘いながらこなします。街のレストランのウェイトレスよりハードな仕事です。足腰に痛みを抱える人も多いとか。あまり悲観的な話をしてはいけませんね。今は入社のハードルは下がりました」

「先生はどんな映画がお好きですか?」、「先生のお勧めの本は?」などといった質問もあり、回答に時間がかかります。140名全員と対話することは大変だと知りました。テキスト作りに二日、講義の準備に一日、他の日は女子学生への回答に毎晩、遅くまで格闘する「女難?」の日々になってしまいました。

 時代はどんどん進んでいます。旅行会社の相談も、オンライン形式の導入が始まっています。それどころか「バーチャル旅行」(実際には移動しない現地に行かないツアー)まで販売されています。さて、これが旅行と言えるかどうか?

私もいまだ迷い多き人間ですが、大学の教室で自分の経験と体験を語ることは、普通には得がたい貴重な時間です。誰に遠慮することもない、若い女子学生に観光と仕事を語り、社会と人生を存分に語りたいと思います。

「心の欲するところに従えども、矩を超えず」(孔子)

(完)