「一九四〇 命の輸送」安田亘宏(関東支部)著のご紹介

これほどまでに有名でJTBにとって誇らしい話であるにもかかわらず、JTBの職員がいかなる業務を果たしていたのか、確かに具体的には良く知らなかった。

「ナチス・ドイツの苛烈極める迫害を、<命のビザ>を手に必死に逃げ延びたユダヤ人の果てしない旅路の陰には、使命に燃える、若きジャパン・ツーリスト・ビューロー職員たちの尽力があった」。本書の帯に記された紹介文程度の知識しか持ち合わせていなかったことをまずは恥じた。

時は書名にもある1940(昭和15)年。舞台は、米国ユダヤ人協会から難民の輸送あっせんの依頼を受けたニューヨーク、シベリア鉄道から満州鉄道への乗換駅・満州里、敦賀とウラジオストック、そこを行き来する船中、さらには旅立ちの港町神戸。主人公・浅田海が、それぞれの地で同僚の職員たちと誠心誠意ユダヤ難民のお世話をし、颯爽と活躍する小説である。

入社2年目にも関わらず「ビューローマンシップ」が身についている浅田海。読み始めから、入社当時に叩き込まれたJTB社員の姿勢を思い出させてくれる。修学旅行添乗の時、ズボンは必ず「寝押し」をしたものだった。「お客様を守り、旅をお世話するのがビューローの仕事」の言葉には、旅行をご案内し添乗での苦労の数々を思い出す。

小説ながら様々な逸話がちりばめられた本書。それもそのはず、構想10年、参考図書は50冊にものぼる。ここまでに読書家だったのかとあらためて感心するが、すでにツーリズム論の書籍を24冊も発行している著者だ。さもありなんと納得した。

ところで肝心のJTB職員の活躍はいかに。それは、手に取ってお読みいただくに限る。天草丸に乗船する迫田辰也は大迫辰雄さんかと先輩方の名をあてはめながら読むもよし、シベリア鉄道は広軌で満州鉄道は標準軌であったという鉄道マニアの心をくすぐる話しにときめくもよし。ビューローマンの誇りに満ちた奮闘ぶりをたんと熟読玩味あれ。

発行:彩流社 定価:2,800円(税別)

紹介者:西山 恒夫(関東支部)