会員だより:僥倖な話 …丸谷才一さん②…(湘南 安西美津子)

 丸谷先生の著作に『青い雨傘』というエッセイ集がある。その中に『ぶらんこ』という一稿があり、「ぶらんこ・ふらここ、いわゆるブランコは北方騎馬民族の習俗であるらしい。金瓶梅にも主人公が、女性を乗せて漕ぐと頭がくらくらする、何故だかわからないが…」とある。俳句の春の季語に『ブランコ』があり、ある句会で兼題に出された時に幼稚園のブランコのことを詠んだのだが、あの一節がずーっと引っかかっていた。
 1998年3月、韓国旅行の折、豊明宮(改装前)も参観した。何とそこには高さ5mはあると思われるブランコがあるではないか!それを見た時に「これだぁ!」と思った。あそこまで高く上がれば外は見られるし、漕ぎ手は乗っている人を下から仰ぎ見ることになる。下着などはいていない時代、あそこは丸見え。金瓶梅の主人公が〝頭がくらくらする〟のは当然のことと丸谷先生はわかっていらしたのに…と気づき、ブランコの写真も添えて差し上げた便りへの返信が左記の手紙。私の唯一の宝物である。
 お便りをいただいた当座はハンドバッグに入れ、友人、知人に見せびらかして歩いた。「このようなお便りをいただいて、舞い上がらない方がおかしいわね」と言って。「万年筆の書き物では軸装はできない、額装にしたら」と言われ、そうした。今、我が家の鴨居を飾っている。

豊明宮の5mブランコ

【手紙抜粋】・・・お手紙うれしく拝見。安西さん
は相変らず文章がうまいなと思いました。ブ
ランコの写真も面白かった。・・・