「もともと伊曽乃(いその)神社の氏子でしたので、中学2年から5年間、700Kgほどあるだんじり(山車)を20~30名で担いでいました」。土野邦雄さんは、懐かしそうに語った。

 愛媛県西条市は、石鎚山を背に水が豊かな所。稲作が盛んで、江戸中期から、伊曽乃神社で五穀豊穣を祝う祭礼が行われてきた。今は、嘉母(かも)神社、石岡(いわおか)神社、飯積(いいづみ)神社の例祭を合わせて西条まつりと呼ぶ。氏子各町には、日本一ともいわれる数の屋台が奉納されている。その数は、細工を凝らしただんじりが131台。人の背丈ほどもある木製の車輪を付けた神輿が6台に太鼓台13台。合計150台にも及ぶ。


市内を練り歩く神輿

祭りの圧巻は、伊曽乃神社の「川入り」だ。伊勢音頭を歌いながら市内を巡行した80台のだんじりが、提灯に灯をともし、夕闇迫る加茂川の土手に並び立つ。宮入りのため川を渡ろうとする神輿を、名残惜しげに見送るだんじり。数台は川から出すまいと神輿を取り囲み、ロウソクの灯が川面に揺れる。絵巻物を見ているかのような錯覚さえ覚え、祭りは終りを迎える。


祭りのクライマックス「川2-1入り」

 この祭りには市民の大多数が参加するため、企業や学校は一斉に休みとなる。正月には帰省しなくとも、祭りには必ず帰ってくる人が多いとか。テノール歌手の秋川雅史さんもその一人。毎年欠かさず大声で伊勢音頭を歌うという。この祭りの日から始まる暦もあるというから、市民の愛着が分かるというものだ。

 「2006年のホノルルフェスティバルで、45年ぶりにだんじりを担ぎました。カラカウア通りでトリを務め最高でした」と、土野さん。嬉しそうに思い出を語ってくれた。